美狐はベッドの上で愛をささやく
そういうことを考えている今も、こっちに向かって来る、水を含んだ足音は止まない。
気を失っちゃだめ。
気を失っちゃだめ。
わたしは、その場に立ったまま、自分に言い聞かせる。
逃げても無駄な事は知っている。
『彼ら』はどこにだって出現する。
逃げれば逃げるほど、恐怖に包まれるだけ……。
それに、この場所から逃げ出して助けを呼べば、その人もわたしの餌食になって命を落とす危険性がある。
だったら……。
わたしはここにいて、誰にも迷惑をかけないようにするしかない。
たとえ、身のすくむような恐ろしい出来事が待ち構えていたとしても……。
わたしは入り口の襖に目を向けて、ジッと朝が来るのを待つ。
目をつむっても結果は同じ。
彼らは瞼(マブタ)の裏に現れる。
逃げようにも逃げられない。
耳を澄ませば、やって来る濡れた足音は止まり、周囲は虫の鳴き声すらしないことに気がついた。