美狐はベッドの上で愛をささやく

また、あの底知れぬ恐怖を抱くことになるのだと思うと、

わたしの頭は――――。

心は――――。


体は――――。



ずっと冷たくなっていく…………。




わたしはとうとう、恐怖に負けた。

ありったけの力を振り絞り、女の子から逃れようと体を動かし、足を引きずるようにして部屋を抜け出す。


恐怖に駆られた今のわたしには、誰かを犠牲にするとか、他人のことはもう考えていられなかった。



この恐怖から、逃れることだけを一心に願う。






「……はあ、はあっ」

どれくらい走っただろう。


道なき道を無我夢中で走るわたしの足は、靴を履いていないせいで無数の傷がついていた。

傷から流れる血で、足は赤く染まっている。


ここはどこだろう。


わたしはいったい、どこに逃げようとしているのだろう。


逃げた道は、家々が立ち並ぶ村じゃなくて、山の方向……。


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