美狐はベッドの上で愛をささやく
わたしは目の前にある、父の写真さえも見ることができず、ただ顔を俯(ウツム)けていた。
ぎゅっと噛みしめた唇は、嗚咽(オエツ)さえも許さない――。
わたしは泣いてはいけない。
泣く資格なんて、わたしにはない。
そう自分に言い聞かせ、奏美さんたちと同じ黒色のスカートを膝の上で握りしめる。
そんなわたしの姿に、集まった人々は異質な視線を放ち、ヒソヒソと陰口をたたいている。
(「あの子でしょう? 清人さんに拾われた子って……」)
(「本当、あの子よ。うわ、何あの雰囲気、肌が真っ白だし、覇気がないわね。それに、あの腰まである長い髪の毛……なにアレ、灰色? 幽霊みたい」)
(「こわいわ~」)
(「ねぇ、聞いた? なんでも、清人さんが亡くなられる直前まで、あの子が傍にいたそうじゃない?」)
(「イヤねぇ、あんな、どこの子かさえもわからない子の面倒を見たばっかりに、清人さんはお亡くなりになったのよ?」)