美狐はベッドの上で愛をささやく

紅さんが怒りをあらわにした。

ルビーやオブシディアンのような輝きをした妖気が、紅さんの体から溢(アフ)れ出した。


いつも冷静で、いつも微笑んでいた紅さん。


怒鳴る姿を目にしたのは初めてだ。



わたしのために――……。


倉橋さんの手によってわたしが傷つけられたことで、紅さんは自分のことのように怒ってくれている……。



……不思議。

紅さんを傍に感じるだけで、さっきまでの寒さが嘘のように消えていく……。



わたしは殺されそうになっているっていうのにね。

紅さんの新たな一面を見ることができて嬉しいと思っている……。




また、沈黙が流れ、紅さんと倉橋さんとの睨(ニラ)み合いが続く。




「若様!!」


「紅兄(クレニイ)!! よかった無事だったのね」


ロウソクの明かりのみが照らす薄暗闇の中、ふたつの声が、流れる沈黙を破った。


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