美狐はベッドの上で愛をささやく

わたしは霊体に意識を乗っ取られたんじゃなかったの?





わたしは、この人を襲っていないの?




どうして?






「大丈夫? どこか打った?」

しばらく硬直していると、男の人は、しどろもどろになっているわたしの顔を覗きこんでくる。



赤茶色の瞳がみすぼらしい灰色の髪をしたわたしを映し出した。



だけどダメ。


綺麗な瞳に汚いわたしを映しちゃいけない。


「……っつ!!」

わたしは唇を引き結び、顔を俯(ウツム)けた。


「どこを打ったの? 大変だ、手当てしなければ!!」


ふわり。

突然、わたしの体が宙に浮く。



「えっ!?」


男の人は軽々とわたし持ち上げ、横抱きにした。



いくらわたしがご飯を食べていなかったとはいえ、男の人の体はすらりとしていて、細い。

筋肉なんてついてなさそうなのに、簡単にわたしを持ち上げるなんて、見かけよりずっと力が強いんだ……。


< 53 / 396 >

この作品をシェア

pagetop