可愛いなんてバカらしい
赤いひまわり

北館の秘密

生徒会に入って、かれこれ3週間が経とうとしていた。


「うぃーっす。」


もう生徒会には慣れはじめている俺だが一つ、なかなか慣れない仕事があった。


「じゃあ、真琴ちゃん今日もよろしくね!」


毎週金曜日にやってくる生徒会長と二人での校内放課後巡回。


「今日の私たちの巡回場所は、北館と東館。絵美と梨砂ちゃんが西館。熊田くんが本館。」


生徒会長の指示で生徒会メンバーは足早に移動した。


俺と生徒会長はまず東館から巡回に行こうという事になった。


この間の騒動以来、東館のたまり場は影一つすら見当たらない。


たまっていた奴らは反省して、あの日以来、停学が解けても東館には近づいていないらしい。


「誰もいないとこんなに静かな校舎なんだね...」


生徒会長が俺の制服の裾を握って少し震えた声で言った。


「こういうとこ苦手?」


俺は抱きしめたい気持ちをグッと堪えて気を紛らわした。


「.....えへへ、少し苦手かなぁ」


生徒会長は気を紛らわせたかったのか、少し笑ったが俺の制服の裾はぎゅっと握ったままだった。


「それに北館に比べたら東館なんて...」


北館?なんかあるのかな?


「北館になんかあるの?」


3年間この学校にいるが北館の噂は全く聞かない。


「"本当"に起こった事件だから生徒会で噂を止めてたの。だから、知ってる人はあんまりいないの。」


息を飲む。


「その事件って.....?」


生徒会長は答えてくれなかった。


東館を出て、北館に向かっている途中。


生徒会長はようやく答えてくれた。


「北館に唯一ある化学実験室。そこにね、赤いひまわりがあるの。」


「赤いひまわり?あぁ、窓際に置いてあるやつか。それがどうしたんだ?」


生徒会長は下を向いたまま小さな声で言った。


「あのひまわり.....どうして赤く染まってるか知ってる?」


「え?いや、知らないけど....。」


「あの赤いひまわりはね.....」


その後、生徒会長は怖がりすぎて何を言っているのか俺しか分からないため補足します。


この学校が設立して、初めての生徒。


つまり、第一期生。


その内の一人が化学実験に興味があったらしい。


そして、成功した。


赤いひまわりの実験に。


染めかたは簡単。


赤い絵の具を混ぜた水にひまわりの茎を切り、浸して置くだけ。


しかし、その生徒は昔からある疑問があった。


本物の血で染めたら、ひまわりは茶色に変色するのかと。


実験材料は自分の血のみ。


リストカットをし、ひまわりを染めた。


しかし、ひまわりが完全に染まる前にその生徒は出血多量で死亡。


ひまわりが完全に染まる瞬間を見れなかった生徒は今も染まるのをあの"化学実験室"で待っているのだという。


理論上、血で赤く染まったひまわりは変色するはずだ。


しかし......なぜか、化学実験室のひまわりは変色しなかった。


それは一体なぜなのだろう.....。



ということらしい。


まぁ、筋は通っているが、ただの噂だろう。


きっと、あのひまわりは造花に決まっている。


「ただの噂でしょ?生徒会長がそんなことに流されてちゃダメじゃない。」


「でも.....」


「大丈夫、大丈夫!幽霊の目撃情報もないんでしょ?」


「うん...」


生徒会長を元気づけたところで二人はようやく北館に着いた。


「じゃ、さっさと終わらせて帰ろう!」


元気よく北館に足をいれた。


その瞬間、他の校舎とまるで雰囲気が違うことに気がついた。


まさか、本当に.......なーんて。


そんなわけねぇよ。


化学実験室は二階。


三階まである北館は一度登りきって、帰ってくるとき、もう一度化学実験室の前を通らないと下にいけない。


つまり、行きと帰りで二回通らなくてはならない。


「一階は異常なしと....」


一階を全て回り、窓とドアの鍵をチェックし終えた。


「さ、二階行こっか。」


生徒会長は重い足取りで階段を登り始めた。


「ここにいてもいいんだよ?」


そう俺が言っても、生徒会長は横に首を振る。


「真琴ちゃんも怖いのに一人で行かせられないよ!」


全然怖くないけど、生徒会長の優しさだ.....!


ここで男らしさをアピールしよう!


女の格好だけど。


「じゃあ、行くよ?」


俺と生徒会長は夕暮れで赤く染まった階段を一段一段ゆっくり登っていった。


「異常なしと....。あとは、化学実験室だけど、大丈夫?」


生徒会長は俺の制服をさらにぎゅっと握って、目には涙が少し。


「ここで待ってて。あたしが点検してくるから。」


男らしさをアピールするため、俺は化学実験室の窓とドアの鍵をチェックしにいった。


「窓オーケー。ドアもオーケー。幸ちゃーん、異常ないよ!」


待っていた生徒会長のもとに駆け足で戻り、三階に向かう。


「化学実験室は見ないように行こっか。」


生徒会長の前をふさぐようにして歩き、視界を細める。


「本当ごめんね....。ここは毎回はずしてもらってたんだけど、熊田くんに克服しろって言われちゃって....。」


三階の点検をしながら、生徒会長は昔話をしてくれた。


「熊田くんはね、昔から知り合いだったんだ。
最初はそこまで親しくなかったの。
でも、高校に入って生徒会の一員になって、そこで初めて話すようになったんだ。
怖い印象があったんだけど話したら案外面白くて意気投合したんだぁ。」


生徒会長はまるで好きな人の話をするように柔らかい口調で話してくれた。


「......熊田のこと好きなの?」


生徒会長はボッと顔を赤らめ、否定した。


「す、好きじゃないよ!」


明らかに焦ってる。


あぁ......終わった....俺の青春。


生徒会長は話を続けた。


「た、確かに最近までは好き...だったんだぁ。でも、他に気になる人ができたの...。」


生徒会長は下を向いて、顔を赤らめた。


聞いていいのか.....?


もう聞いちゃっていいかな!?


「その気になる人って....?」
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