可愛いなんてバカらしい
「ありがとう.....。女に戻してくれて。もう大丈夫だから....。ありがとう」


そっと体を離して、万里は静かに立った。


万里の顔は泣いたあとで少し腫れていた。


女を泣かせるなんて俺は何て馬鹿なんだろう。


「何ボケーッとしてんだよ。ほら。彼女さんが来てるぜ。」


屋上のドアが少し開いている。


笑みがこぼれた。


フフッ、そういえば前にもこんなことあったなぁ。


「俺はもう行くよ。じゃあな。」


万里は生徒会長のいる出口へ歩いた。


「ちょっと借りたぜ。ありがとう。」


生徒会長の肩をポンッと叩いた。


「こちらこそ、ありがとうございました。」


生徒会長と万里は優しい笑顔ですれ違った。


万里が去り、屋上には俺と生徒会長だけになった。


どんな理由があっても、俺は他の女の肩を抱いてしまった。


「ごめん、幸ちゃん...俺、万里を....その....。」


幸ちゃんは静かに言った。


「何も言わなくていいよ。分かってますから。」


笑顔がなんだか悲しそうに見える。


こういうとき、どうすればいいのかな....。


許してくれたのかな......。


「...............やっぱり嘘です。少し妬けました。」


予想外の言葉に驚きを隠せない。


幸ちゃんは頬を赤く染めて、初めて妬いた。


嬉しくてにやけた。


幸ちゃんってこんな顔もするんだな。


ふっと風が吹き、ラベンダーの香りがする。


「ふふっ。......キスしていい?」


「授業始まっちゃいますよ?」


「う~ん、サボっちゃおうか♪」


「はい♪」


二人の影は重なった。


チャイムの音が鳴っても、二人の耳には届かない。


一つの恋が散り、一つの恋はさらに熱を帯びた。
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