Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
大谷は間違いなく警察署に拘留されるだろう。警察は証拠が揃い次第逮捕に踏み切り、罪を決める刑事裁判となる。
窃盗や監禁や傷害罪に名誉毀損……挙げればきりがない。きっと普通の窃盗より罪は重くなるはずだ。 どう少なく見積もっても、10年は外に出られまい。
これで、桃花の人生を脅かしてきた最大の障害が取り除けた。あれだけ彼女が罪を認めてと訴えたのに、バカにしてはなから相手にしなかった。それが大谷の愚かさの象徴だろう。桃花が差し伸べた救いの道を自ら断ち切ったのだから。
(まったく……見ていてハラハラする。ああまでひどい目に遭わされた相手にそこまで気に掛けてやる必要があるのか)
人生を狂わされたと言っても過言でない、無意味な悪意を持って陥れてきたやつへ、反省と償わせる機会を与えようなどと。桃花は愚かなまでにお人好しだ。
だが、だからこそ……。
(……彼女に惹かれたんだオレは)
何年経とうが、大人になろうが変わらない。まったく見知らぬ子どもだったオレに、外から手を差し伸べてくれた。あの雪の日と同じ。
桃花であれば、きっと困った人間を見捨てられない。見てみぬふりはしまい。
だったら……彼女の夢はきっと、富士美の言う通り人を喜ばせる仕事を目指すはず。
『桃花さんは○○イオンの書店にいらっしゃいます』
近隣の大型ショッピングモールの書店の資格本コーナーにいるという護衛からの報告に、駐輪場でバイクのヘルメットを脱ぎながらやはりと頷いた。
そして、そのまま侍従のひとりに確認をする。
「予約はちゃんと取れたか?」
『はい。レストランもホテルも押さえてあります』
「わかった。ありがとう」
全てに決着がついて、ようやく桃花と過ごすための準備は整った。逸る気持ちを押さえながら、ショッピングモールの中へ足を踏み入れた。