Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
ショッピングモールの三階にある書店で桃花を見つけた時、彼女はヨーロッパのガイドブックを手にしていた。チラリと見た限りでは、ドイツ語圏のページを熱心に眺めている。
(ヴァルヌスに興味を持ってくれたのか?)
とはいえ、オレがヴァルヌスについて話をしたのはパーティーの時だけ。それ以外だとニセ王子の雅幸の来日がきっかけかもしれない。
雅幸のあの性格だ。食品フロアにいた桃花に余計なことを吹き込んだのは間違いない。
(まさか……雅幸に興味を持った訳じゃないな? 王子という身分にだけ惹かれて)
一瞬、そう勘繰りそうになるが。いいや、と心の中で否定をする。桃花は相手の立場で態度を変えたりする女性じゃない。
(……もしかしなくとも、オレに関係することだから。興味を持ってくれた?)
嫌いな相手に関わることをわざわざ調べたりしないだろう。ならば、桃花はオレの祖国(今の設定では祖母の祖国)だとわかって気にしてくれたということ。
嫌われていなかった。どころかむしろ、興味を持ってくれる対象であった。その事実はオレの中に希望を持たせるのに十分な力があった。
そして、桃花はそのガイドブックを買うべくレジに並ぶ。後からヴァルヌスについて勉強をしてくれるのか……その期待を持ったオレは、待ちきれなくて衝動的に彼女に声をかけた。
「へぇ、アンタもそんなの読むんだ」
「へっ!?」
桃花がすっとんきょうな声を上げ、震えた手から2つの本が滑り落ちる。そんなに驚くかと思いながら、拾った二冊をレジカウンターに置いた。