Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
オレに見つかった時の桃花の反応ときたら。最高過ぎて笑いを堪えるのが大変だった。
真面目な顔を取り繕いながらも、時折唇や目尻がピクピク動いていたなど。狼狽えている彼女には気づく余裕もないだろうが。
「あ……あの」
おそらく無意識に、なのだろう。レジを済ませ書店の紙袋を抱えた桃花は、オレに何かを訊ねようと口を開いた。けれど、すぐにハッとしたように口をつぐむ。
「なに?」
「いえ……なんでもありません」
彼女の話を聞こうと表情を和らげて問いかけたのに、桃花は一瞬だけ寂しげな。諦めたような笑顔を覗かせただけで、すぐに愛想笑いに近いいつもの表情に戻る。
(また……自分を押し殺したのか、きみは)
せっかく重い殻を破れたと思ったのに、望む前に諦めてどうする? その資格の本だって、夢を持ちたいから買ったのだろう。ならば、今のすぐ諦める癖をなくさねば、何一つ手になどできやしない。
桃花がペコリと頭を下げ立ち去ろうとしたので、とっさに腕を掴んで足止めをした。
「……あの、なにか?」
「今日、時間はあるか?」
「は……?」
困惑する様子がよく見て取れる。珍しく眉を寄せて考える素振りを見せてから、しぶしぶと言ったふうに吐き出した。
「……特に予定はありませんけど」
「じゃあ、付き合え」
本当は予定がないとは知ってはいたが、強引に付き合わせるにしてもきちんと確認が必要だろう。
後は、オレ次第だ。
もう離したくない彼女の手を掴むと、そのまま大股でレストランへ向かった。