Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
私はたぶん、自然に頬が緩んで笑っていたんだと思う。
今までにないわくわくした期待と高揚感に、体がウズウズしてならない。
サンルームのガラスに両手をつけた私に、赤い帽子を被った少女は本当に嬉しそうに笑った。
鼻や頬が真っ赤で、髪の毛も乱れていたし。決して整った顔だちではなかった。
それでも、私の全てを捕らえる力があったのは確かで。
彼女が真っ赤になった手で小さな雪のうさぎを差し出した時。私は本気であちら側に、と願った。
“……僕も遊びたいな”
彼女とはしゃぎながら遊んで、大声で笑って。お喋りできたらどんなに楽しいだろう。想像しただけでわくわくして、すぐに乳母にその事を申し付けようとした。
けれど、当然乳母も護衛もよい顔はしない。
“カイ様がああいった異国の民と交流するにはまだお早いでしょう”
“どうして? 僕は遊びたいだけなんだ。ちょっとだけでいいから”
いつもは素直に大人の言うことを聞いていた私は、予想外に食い下がったからだろう。対応に困った乳母や侍従に、突然奈美がこう申し出た。
“殿下を惑わす子どもがいけないんです。わたくしが追い払ってまいります”
今まで存在すら忘れていた奈美は、眉間にシワを寄せてそう言い放つと。私が止める間もなくサンルームの外へ通じるドアを開け放つ。
何となく違和感を感じて私が止めようとしても、彼女に任せましょうという侍従に妨害され外に出ることは叶わなかった。