Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
理想の上ではそう考えていても、彼女の肌と、表情と、熱と。吐息ひとつすら、オレの理性を引き剥がしていく。狂う、溺れるというなら、オレはとっくに狂ってるし、溺れきっているだろう。
柔らかい肌に触れるたびに、どんどん熱が高まる。抑えきれない愛しさと、荒ぶる感情とで、自分を制御しきれないギリギリの縁に立っていた。
きっと彼女が本当の涙をこぼせば、理性を全て無くし獣のようにただひたすら貪っていた。それほど、オレは追い詰められ限界だった。それを抑えていられたのは、桃花がオレを無条件で受け入れてくれたからだ。
あの、雪の日のように。
「た……かみや、さん?」
朱が散る肌でオレを見上げる彼女の目に涙が浮かんでいたが、拒む意味ではないと解っているから、もう偽りの名前を呼ばれるのに耐えられなかった。
「……今は、何もかも忘れろ」
「忘れる……?」
「オレの、本当の名前を呼べ」
「高宮さんの……?」
ああ、仮初めの名前ではなく、オレの――私の。本当の身分を示す真の名前。これを聞いたきみは、それでも私を受け入れてくれるのか?
恐れを抱き、それでも呼んで欲しくて彼女の額にキスを落としてから真名を口にした。
「私の、本当の名前は――カイ・フォン・ツヴィリング……ヴァルヌス王国エルマー王子の遺児で、現第一王子だ」
「カイ……?」
桃花が、不思議そうに私の名前を呼ぶ。ああ、そうだオレの本当の名前を、やっと呼んでもらえた。 安堵とともに、きっと無意識にだっただろう。
桃花は――笑ってくれた。
雪の日の、あのひまわりのような笑顔を。私に見せてくれたのだ。
ああ――
彼女は、何一つ変わらない。私が王子と知っても、変わらず笑いかけてくれる。受け入れてくれる。
それだから、私はきみを愛した――。
溶けそうな幸福感の中で、私は桃花とひとつになった。