Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
きっと想像もできない痛みだっただろう。未だ異性を受け入れた経験がないのだから、きっと苦しみもあるに違いない。
男である私に想像はできなかったが、必死に声を抑え痛みに耐える姿が健気で胸を打たれる。まったく、きみはどこまで私を虜にさせてくれるのだろう。
それでも、やはり何かにすがりつきたくなったのだろう。微かに涙を浮かべ、紅潮した顔でオレを見上げる。
「……か、カイ……」
助けを請うように桃花が伸ばしてきた手を、私は自分の手で包み込む。そして、そのまま彼女の手を自分の胸に導いた。
私がどれだけ緊張しているか、伝わるといい。言葉にするにはまだ早いが、嘘をつけない鼓動の速さできみに語る。きみにどれだけ惹かれているのか――を。
桃花は暖かくてふわりと溶けそうに甘い。際限なく食べたくなる甘美な菓子のようだ。
努力を始めたきみは、以前よりもっとずっと魅力的になった。綺麗になった。私がどれだけ同僚や桂木を牽制してきたか、きっと知らないだろう?
だが、きみは知らなくていい。自分がどれだけ綺麗か、魅力的なのか。知るのは私だけ。それだけでいい。
「……よく似合う。こちらの方が何倍もいい」
そう甘く囁いて、桃花の髪を指ですく。サラリと指を通る髪はほんの少し茶色がかっていて、ダウンライトの光でキラリと光った。
私が褒めたことで桃花が頬を紅潮させ、嬉しそうに笑ってくれた。とても、とても幸せそうに。
それだけで、十分だった。
それだけでヴァルヌスへ帰り、政敵と戦う力をもらえた。