Schneehase~雪うさぎ 身代わり王子にご用心番外編



(あっ!)


そのショッキングな光景で、私の頭はマヒした。


村田家一人娘の奈美が庭に出た途端、思いっきりあの少女をぶったのだから。


ぐらついた体を立て直そうとした少女を、奈美は何度も何度も叩いた。何かを喚きながら。


少女の頬が気の毒なほどに腫れたのを見た瞬間、私の中で何かが切れた。忍耐というものだったかもしれない。


私を押さえつけていた侍従の腕をすり抜け、ドアへ走り寄る。取っ手を掴んだ手は、おおきな手に阻まれた。


“カイ王子、あなたが出てはなりません”


専用の護衛がそう言うのを、信じられない思いで見た。


“どうして? あの子が死んじゃうよ! どうして止めちゃいけないんだ”

“あなたは仮にも父君に次ぐ世継ぎでいらっしゃる。あなたのひと言や行動は、思った以上にひとに影響を与える。まずはそれを学ぶ必要があります”

“そんなの……わからないよ!”


護衛が諭す内容は難しくて、でも気ばかりが焦る。


“放せよ! 僕はあの子を助けたいんだ”

“ならば、お命じください。それだけで結構……あなた様自らが手を動かす必要はありません”


護衛だけでなく、侍従や乳母という大人に囲まれ。3歳児が敵うはずがない。


外を見れば、奈美があの少女を雪に埋めてるではないか。


本当に、死んじゃう!


私は、断腸の思いで彼女の救出を皆に命じた。


< 13 / 391 >

この作品をシェア

pagetop