Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
(あっ!)
そのショッキングな光景で、私の頭はマヒした。
村田家一人娘の奈美が庭に出た途端、思いっきりあの少女をぶったのだから。
ぐらついた体を立て直そうとした少女を、奈美は何度も何度も叩いた。何かを喚きながら。
少女の頬が気の毒なほどに腫れたのを見た瞬間、私の中で何かが切れた。忍耐というものだったかもしれない。
私を押さえつけていた侍従の腕をすり抜け、ドアへ走り寄る。取っ手を掴んだ手は、おおきな手に阻まれた。
“カイ王子、あなたが出てはなりません”
専用の護衛がそう言うのを、信じられない思いで見た。
“どうして? あの子が死んじゃうよ! どうして止めちゃいけないんだ”
“あなたは仮にも父君に次ぐ世継ぎでいらっしゃる。あなたのひと言や行動は、思った以上にひとに影響を与える。まずはそれを学ぶ必要があります”
“そんなの……わからないよ!”
護衛が諭す内容は難しくて、でも気ばかりが焦る。
“放せよ! 僕はあの子を助けたいんだ”
“ならば、お命じください。それだけで結構……あなた様自らが手を動かす必要はありません”
護衛だけでなく、侍従や乳母という大人に囲まれ。3歳児が敵うはずがない。
外を見れば、奈美があの少女を雪に埋めてるではないか。
本当に、死んじゃう!
私は、断腸の思いで彼女の救出を皆に命じた。