Schneehase~雪うさぎ 身代わり王子にご用心番外編



2月28日。


いよいよ桃花と逢える、と朝から落ち着かない気分だった。


「死ぬ気で義務を果たせ」というマリアの条件もクリアしたから、今日は彼女が桃花を連れ出す役割を担ってくれる。


マリアはどうやら桃花を非常に気に入っているらしく、時折電話でチクチク言われた。私が不甲斐ないならば、桃花を託すわけにはいかないとハッキリ言われた。


『異国へたった一人で嫁ぐ大変さが、あなたはよく解ってないわよ。オーストリアから日本へ嫁ぐわたくしには、縁者やお父様の会社もある。けど、ヴァルヌスに嫁ぐ桃花には、何一つないのよ。頼れるのはあなたの気持ちだけなの。だから、少しでも不安にさせたり土台がぐらつくようなら、いっそのことすっぱりと桃花を解放しなさい』


国際結婚を早くから意識して準備してきた経験者のアドバイスは、胸にズシリと重く響く。

愛さえあれば……というのはよく聞く陳腐なフレーズだが、実際には愛だけで乗り越えられることなど少ない。


言葉も習慣も町の景色も何もかも違う。生活だってがらりと変わるし、知り合いだっていない。そんな中で頼りになるのは、相手の気持ち一つだけなのだ。


(もっと、しっかりしなくては。マリアの言う通りに、不安にさせてどうする? まずは私がきちんと伝えて彼女を安心させなくては)


今日、ちゃんと伝えよう。20年抱いてきた想いを。



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