Schneehase~雪うさぎ 身代わり王子にご用心番外編






久しぶりに足を踏み入れたスーパーは、何一つ変わっていなかった。たった半月ぶりなのに、もう郷愁に近い思いが湧いてくる。


おそらく、私がこの店に足を踏み入れるのは最後になるだろう。ヴァルヌスに帰国すれば国外に出るのは難しくなるし、王太子となり国王に即位すれば尚更。日本へやって来るにも国賓扱いとなり、行動も制約される。
周りにできる人垣の間を抜けて、一つ一つ目に焼きつけるように眺めた。


何の変哲もない、よくある地方のスーパー。けれども、私にとっては大切な思い出が詰まってる。


二階の社員ロッカーでは、よく桃花がドアに額をぶつけてた。彼女がたまに社員食堂を使うと、決まってきつねうどんを食べてた。彼女の接客の時の嬉しそうに笑う顔。本当に好きな仕事なんだな、と解った。


もっと、早く桃花と思い出を作ればよかったか……と自嘲するが、失った時間は取り戻せない。久しぶりにお会いする春日先輩の意味ありげな含み笑いを見て、嫌な予感が的中したのを知る。


やはり、春日先輩は私が桃花へのメッセージを込めた雪うさぎの短編を、どさくさ紛れに上映していた。


“大切な作品なら放置してるやつが悪い。きちんと管理しないなら、どう利用されようが文句ないだろ”


私がヴァルヌスの王子と知ってるくせに、春日先輩はぬけぬけとそう言うだろう。あの人のフリーダムさにはかなわない。


上映が終わってテントから出た時、ようやく桃花の姿を見られて安堵した。


やっと、逢えた。やっと言える。


先に行っているというマリアの合図に頷くと、何食わぬ顔で他の公務をこなした。

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