Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
たかが30分、されど30分。許された時間が長いか短いかは、私の態度次第だろう。無意味な時間なら、丸一日共にいようが無駄なだけ。限られた時間で伝えたい想いは、たったひと言。日本へやって来て10年――ようやくチャンスがやって来た。
スーパーに隣接する個人経営の喫茶店が待ち合わせ場所。マスコミを一切シャットアウトするために、あくまでも一般人のふりをして店に向かう。マリアとともに。
マリアの話では先に桃花が座っている、とのことだった。自然と早足になりながら、ようやく着いた喫茶店の手前でドアに手をかける。
落ち着け、と己に言い聞かせながら、深呼吸を何度か繰り返し昂る気持ちを冷ます。
震えるのは武者震いだ、手のひらに汗をかくのは緊張からだ。心臓がうるさいのは早く歩いたからだ。ヘタな言い訳をしながら、よし! とガラス張りのドアを開く。
カランカランと軽快なベルの音を鳴らしながら開いたドア。それはまるで、新しい始まりのようだ……などと思った私も大概ロマンチストかもしれない。
次に桃花のために鳴らすベルは、大聖堂のあのベルにしたいとちょっとだけ夢見つつ、すぐに桃花の姿を見つけた。