Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
「モモカ、連れてきたわ。30分だけだけど……じっくりお話しなさいな」
「あ……ありがとうございます、マリアさん」
「いいのよ。わたくしが出来るのはここまで。後はちゃんと自分の言葉で話すのよ」
マリアは樹里を連れて入り口側の離れた席へ座る。すっかりオーナーと馴染みだからか、特別メニューを作ってくれるようだ。
樹里を見守るマリアはすっかり母の顔で、樹里もマリアになついて慕ってる。
本来なら桃花が引き受けた以上は彼女が面倒を見るべきだろう。だが、桃花とマリアと雅幸が話し合い、樹里の意思も確認した結果、樹里はマリアと雅幸が結婚した後に養子にすることが決まった。
桃花も責任を感じて自分が育てるとかなり粘ったらしいが、樹里が頑固にマリアがいいとしがみついて離れなかったらしい。その上養子制度は独身者には条件が厳しくて。それならば仕方ない、と桃花は泣く泣く諦めたと聞いた。
やはり、桃花は一度気にかけたならば忘れない、情が深く優しいひとだ。いくら同情したとはいえ、いじめぬいてきた相手の子どもを独身で引き受け育てようなんて。なかなか決意できやしないだろう。
(だから、私にもつけこまれて1週間好き放題されたのだがな)
緊張感からかやたらに喉が渇き、グラスに入った水を一気に飲み干す。目の前の桃花は恥ずかしいのか、両手で包んだグラスをカラカラと弄んでいた。