Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
私がグラスを置くと、桃花の手がデカンターに伸びる。
「お、お水……注ぐね」
「いらない」
気を遣ってくれたのは嬉しいが、今欲しいのは水じゃない。そんな思いもあって、以前と同じ無愛想な物言いになってしまった。
「それより、話ってなに? あんまり時間がないから早くして」
もっと柔らかいしゃべり方をするつもりなのに、桃花を前にするとうまく言えない。どんな相手でも思う様に話せるのに、最愛の人の前だとまるで初恋の少年のように緊張してしまう。
(やれやれ……これだと何も変わらないじゃないか。もっと愛想を良くしないと呆れられるぞ)
内心自分に呆れながら一人反省会をしていると、信じられないことが起きた。
「ふっ……」
桃花が、私を見て吹き出したからだ。
笑われた……
軽いショックを受けた私は頭が白くなって、繕えずに素の自分が出てしまう。
「何が可笑しい?」
「だって……カイ王子の地と高宮さんの性格が全然変わらないから……」
「仕方ないだろ。オレには演技力なんざない。外面がいいのは昔からの訓練のたまもので、他はまるで大根だからな」
ああ、そうさ。私でない“オレ”は、ぶきっちょで全然器用じゃない。仮面を剥がせばその辺の男と何一つ変わらないんだ。少々いじけながら、ムスッとした顔で頬杖をついた。
まあ、桃花が笑ってくれたならそれも良しか。
ちょっとだけ傷ついた男としてのプライドは、後で挽回させてもらおう。