Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
――彼女はずっと眠り続けていた。どんなに検査をしても身体的な原因は解らず、おそらく過剰なストレスやショックを受けたのが原因だろう、という診断だった。
それはそうだろう。
まだたった6つの女の子が5つも年上の女に顔が変わるまで殴られ、足を踏み潰された上に雪に埋めようとされたんだ。
真っ白な雪に滲んだ、彼女の真っ赤な血は忘れない。
……私に関わったせいで。
母上は私に配慮してくださったのだろう。少女がある程度治るまでは、日本の滞在を延ばしてくださった。無論、夫や義理の父や公務の許す限りは。
私は、毎日病室に通った。1月の寒い中で、ただがむしゃらに。
そこで、気付いた。
目を覚まさない彼女が、魘されているのだと。
たまたま一緒にお見舞いにやって来た母上は、魘された彼女を見て驚いた顔をされたのも一瞬で。すぐに自らのハンカチで彼女の額の汗を拭ってらした。
“……可哀想に。よほどひどい目に遭ったのね。きっと夢の中で繰り返し同じ体験をしてるのでしょう。だけど……きっと彼女は目覚めるのが怖いのね。もっとひどい目に遭うかもしれない……と。目覚めないのは自分を守るための防御本能なのかもしれないわ”
そして、母上は驚く告白をされた。
ご自身も、女子学園中等部時代に苛めを受けてらしたことがあるから、少女の――桃花の気持ちがよく解るのだ、と。
“……誰にも助けてもらえない絶望感は、味あわないと誰にもわからないわ”