Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
あまりに笑われるのが少々悔しくて、桃花を軽く睨むが迫力はちっともないんだろう。彼女の笑いは止まらなかった。
「呼び出したのはオレを笑うためか」
「ち……違うけど。ふふっ」
たぶん自分でも止めようと努力しているらしいが、桃花は私の顔を見る度に肩を揺らして笑う。まったく……彼女の笑顔は好きだが、笑われる対象が自分なのは微妙だ。子どものように拗ねている自覚はあるが、 桃花だとて王子を笑っている。強いて言うならイーブンだろう。
涙を浮かべてまで私を笑う桃花には、あの仄かな暗さはない。以前にあった影――おそらく過去の呪縛――から解き放たれた健やかさが、彼女の顔から窺い知れる。
彼女は、打ち勝ったのだ。自らの意思で戦い、更なる強さを得た。
もう、夢を見るのも怖くはないだろう。
あの1週間。過ごした蜜月の中でも、悪夢を見ないか心配したが、桃花は一度も見なかった。もっとも、私がずっと言えない愛の言葉を囁き続けていたからかもしれないが。
桃花は、強くなった。そう感じれば、自然と表情が緩んで彼女に笑顔を向けられた。
「そうやって笑えるなら、アンタは大丈夫だ」
「……え?」
「もう、悪い夢は見ないだろう?」
「……!!」
ハッと息を飲む桃花が、なぜ解ったの? という顔をしたが。すぐに畏まった表情に変わった。