Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
「カイ王子に、お訊きしたいことがあります」
やはり、桃花はきちんと過去の清算をするつもりでいたらしい。彼女だとて薄々気づいていただろう。私が夏休みの夜に訪れていたことを。
改めて姿勢を正した桃花は、両手を膝の上に置いて私をまっすぐに見つめる。
微かに震える手を握りしめ、静かに問いかけてきた。
「妹から、聞きました。あなたが夏に私の家に忍んで来られたことを。
なぜ……私が眠っているような夜にお越しになったのでしょう? 私が悪夢を見ていたことと関係があるのでしょうか?」
予想通りに彼女の口から出たのは、私がお忍びでしていた訪問のこと。完全に隠しようもないし、いずれはきちんと話しておこうとは考えていた。
自分の不甲斐なさと臆病風に吹かれたことを。
本当ならば、まずは謝罪をして始めるべきだった。それからきちんと自己紹介をして、一緒に遊んで楽しい思い出を作りたかった。
けれど、できなかった。白日のもとに晒すには、桃花の傷はあまりに根深くて。夜に見る夢は彼女を蝕んでいた。
思い出させたくなかった。あの残酷な日を。ただの臆病者の言い訳かもしれないが、あれ以上笑顔を曇らせたくはなくて。彼女を真正面から見ることを躊躇った。
すぐに答えられずに私はまたグラスを傾け水を飲む。桃花がデカンターを手にしようとしてたから、それを片手で止めて息を吐いた。