Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
「……日本語は5つの時に雅幸が来るまで、マトモに話せなかった。覚えてからは……悪夢に悩むアンタに、自分なりに話しかけてたように思う」
臆病者と謗られるのか、それとも笑われるのか。どちらも覚悟はしていたが、桃花はやはり桃花だった。
「そうでしたか……お陰で、悪夢はもう見なくなりました。大谷さんが逮捕され、彼女が罪を認めましたから」
彼女は納得したような顔で、そっかと呟く。そこに私を責めたり嘲笑するものはなくて、ただ真実が判って安堵しただけ。
それどころか桃花の口元がほころんで、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
現金かもしれないし、安直だろう。けれども、桃花のその笑顔で許された気がしたのは、私の都合のいい解釈だろうか。
そうだ。
桃花は、そういった女性(ひと)だ。
多少の過ちも許して相手も包み込む優しさや思い遣りも見せる。人によってはただの鈍い都合のいい人間かもしれないが、彼女の愛情深さはそんな杓子定規では計れない。
あらゆる人へと幅広い愛情を持てる、それが桃花という女性だ。
それだから、私は彼女に惹かれた。
将来の国母になるならば、国民にも等しく愛情を持たねばならない。彼女ならその素質がある。
国民をただの数字や駒としか見なせない人間なら、私は最初から切り捨てた。同じ痛みも苦しみも喜びもある一人の人間と理解するから、桃花を妃にと望む。
ただ好きになっただけならば、雅幸の提案に乗って日本へ来たりはしなかっただろう。
彼女を見ていたかったからもあるが、将来を賭けられるひとか。それを見極める意味でも無謀な条件を飲んだ。