Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
桃花が朱里のことを話に出したついでに、そのこともハッキリさせねばと朱里を見た。マリアを慕う幼い子ども。桃花も複雑な思いだろうが、独身で養子に取るのは難しい。
もしも桃花がどうしても育てたい、というならば私もバックアップをするつもりはあった。彼女が望むならば、朱里を私たちの養女としてヴァルヌス王家に迎え入れる。その覚悟もあった。
無論、純粋な王族ではないから王位継承権は与えられないが、義理の娘としても愛することはできただろう。
そうなるとかなり無謀で猛反発を食らうのはわかっているが、愛するひとの望みは叶えたい。そう考えていた。
だが、現実に朱里が選んだのはマリアと雅幸のもとにいること。
幼い子どもにとって環境が変わるのはよくない上に、やはり大好きな人間の元にいる方が遥かに幸せなのは間違いない。大人の都合を押し付けるより、本人の選択を優先した桃花の気持ちは痛いほど解った。
「……聞いた。子を想うゆえに反省したのだ、と」
「朱里ちゃんは……当分マリアさんが養育します。高宮さんとともに」
「マリアなら安心だろう。雅幸はともかく、彼女はしっかりしている」
私がマリアのことを話すたびに、桃花の顔が曇っていく。苦しいような、切ないような表情を見ていると。まさかという思いが湧いてくる。
「お、幼なじみと聞きました。とても仲がいいと……婚約まではいかずとも、とても深い絆があるようで……」
微かに震える声で桃花がマリアのことを話した時、不謹慎にも胸が喜びに震えた。
もしかしなくとも、桃花はマリアに嫉妬している?
それはとりもなおさず、私を好きでいてくれる証で。やきもちを妬いてくれる彼女を抱きしめたくなる衝動を必死に押さえながら、何とか表面上は冷静さを保つ。