Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
桃花の声は緊張のためか今度こそ震え、拙いながらも頑張って言い切っていた。 震えていたのは声だけでなく、体も。それだけ真剣に尻込みせず訊いてくれたことが嬉しい。
彼女にすれば、なけなしの勇気をかき集めたのだろう。高まる緊張感でか、無意識に両手を動かしグラスを弄っていた。
その質問の答えなど、一つしかない。
だが、桃花にも気持ちをハッキリさせて欲しい私は、自分の内心を明かすのは敢えて最後にしよう、と決めた。
かまをかけるほどではないが、彼女が思い切って告白してくれれば、こちらも正直に打ち明けるつもりではいた。
落ち着かない桃花の態度に内心苦笑しつつ、わざとぼかして返事をする。
「……まだ、正式な予定はない。だが、いずれヴァルヌスで披露し大々的に、とは考えている」
「……!」
桃花の両目が見開かれ、驚愕をこちらへ伝えてくる。やはりショックが大きかったのか、しばらく呆然としていたようだった。
それだけ、私を想ってくれていたのだろう。不謹慎ながら、喜んでいる自分がいたのは否定できない。
どうでもいい相手のことならば、ここまでショックを受けるはずもないのだから。
「わ……かりました……」
涙を必死に堪えようとする桃花が、健気でいとおしい。だが、諦めるのか? 本当にそれでいいのだろうか、と問いかけたくなる。
「い……今まで……ありがとうございました。お会いできて嬉しかったです。これで……」
そんなふうに無感情なガラス玉みたいな瞳になるまで、自分を抑え我慢するな。どうしてそこで勇気を出さないんだ?
嘘つき、と。私は桃花へ呟いた。