Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
今は空港からベルンハルト城へ向かう車中だ。だから、盗聴の心配なくプライベートな話をいくらでもできる。
『結婚も親任せというわけか?』
『父の采配に従えば間違いはございませんので』
アルベルトはさも当然の面持ちでそう答える。彼の父は宮内大臣を務める公爵で、私の父上の幼なじみ。父上の結婚や私の誕生時も多大なサポートをしてもらえた、宮廷の実力者だ。
アルベルトの父に対する崇拝ぶりは、幼い頃から変わらない。父の言葉は絶対で、違えることなどめったにない。
だが、その盲信ぶりは時として危うい脆さを孕む。
『アルベルト、悪いことは言わない。結婚相手は貴族以外から自分で選べ』
『なぜ、殿下がわたくしの婚姻等にご興味がおありなのです?』
アルベルトの眉間のシワが深くなり、スッと目を細める。ガラスのような冷たい瞳が、私を睨めつけた。
まったく……いつもは明晰な頭脳も、プライベートになると回転が鈍るのか。私はやれやれと息を吐いてアルベルトを見返す。
『本当に、理由がわからない?』
『殿下がわたくしのプライベートに関わる必要など微塵もございませんので』
アルベルトは早くこの話題を打ち切りたいようだったが、それこそ私の思うつぼだった。
『あるさ。おまえの結婚だとて宮廷にとってはおおごとだ。貴族の令嬢で親がそうでないとしても、娘自身が私達の妨害になったらどうする?』
私達、という言葉にピクリとアルベルトの眉が動く。彼は、宮廷の改革を目論んでいる。私と利害が一致するから、その点で共闘関係と言えた。
だから。それに関する話ならば、やはり別なようだった。