Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
『父が選ぶ縁談に、瑕疵(かし)があるとでも?』
『いや。公爵が選ぶなら家柄その他は問題はないだろう。完璧なほどにおまえに相応しい娘を用意するだろうさ』
別に公爵を貶したりする意図はない。だが、父を崇拝するあまりにアルベルトは思考停止状態に陥ってる。そこに漬け込まれ、足元を掬われたら元も子もない。
だが、と私はアルベルトへ話を続ける。
『自分の父を尊敬するのもいいが、何をするにもお伺いを立てるのはやめろ。おまえだとて成人した男だ。もっと、自分の頭で考えて動け。でないといざというとき何もできなくなるぞ』
『殿下はよほどわたくしを頭が空っぽの男とお思いか』
さすがに、アルベルトも滲む不快さを隠しきれないようだ。尊敬する父と自分を批判されれば、誰だって憤るのも当たり前。
だが、私は敢えて挑発的な言葉選びをする。
『唯々諾々と父の命令に従うだけ。何かをする前に必ず報告し判断を仰ぎ、出された結論には疑いもせずに従順に従う。
これのどこが“考えている”と言える? 人口知能を載せたロボットだとてもっと考えるぞ』
『……!』
その瞬間、アルベルトの鉄面皮が確かに崩れた。目は見開かれ、握った拳がブルブルと震えていた。
やはり、やつも人間。動揺する時もあるのだと知って安堵する。
だが、それが危うさに繋がるのだと彼には諭しておかねば。
『アルベルト、完璧な人間などいない。最後に頼れるのは自分だけなんだ。もしもあのタヌキがおまえの結婚を利用しようとすれば、簡単にできることを忘れるな。タヌキはおまえの父より遥かに力を持っている。タヌキにごり押しされたら公爵だとて断りきれまい。だから、縁談が来る前に自分で結婚相手を選べと言ったんだ』