Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
しばらくゆったりとお茶を楽しんだ後に、母上は一番訊きたかったであろうことを口に出された。
「それで、今後はどうなさるの?」
「……ひとまず、復帰に向けて早く馴染む努力をします。
日本でも常にこちらの情報は頭に入れてはいましたが、やはり鮮度が違います。自分の目で見て確かめることに勝ることはありませんから、正確な情報を得る努力をします。
まずは……バーク卿の懐柔から始めましょう」
私がその名前を挙げてみせれば、母上は仕方ないわね、と言いたげに微妙な笑顔を作られた。呆れたような、苦笑いのような何とも言い難い微笑みだ。
「バーク卿のやんちゃぶりはあなたも聞き及んでいるでしょうけど、あの方を抑えるだけでも大変ではなくて?」
「ええ。ですが、仮にも彼は伯爵という爵位がある貴族です。自力でその地位を得た彼が、真に愚かとは思えません」
バーク卿はイギリスから移住した、アイルランド系の元英国人だ。主に貿易業を営んでおり、ヴァルヌスの国営企業の幾つかで大きな取引先でもある。
赤毛で鷲鼻の彼は体格も非常に大きく、どら声で怒鳴るように話すために気が弱い人間にはあまり人気がない。仕立てのいいスーツを着てはいるが、あまり品とは縁がなさそうな野性味溢れる50近い男性だ。
だが、その実力は確かでかなりのやり手。破天荒で乱暴に見える行動も、実に合理的で利に叶ったものだ。
彼は誰にも媚びへつらわず、我が道を行く。その出自もあって宮廷では浮いた存在だが、味方にすればこれほど心強い存在はない。
彼を動かすために、日本にいた頃から準備をしてきた。おそらく彼は応じてくれるだろうが、可能性は五分五分かもしれない。かなりの気まぐれで気難しい相手でもあるからだ。