Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
「バーク卿のお話はよいとして、今後の展望はどうかしら?」
母上は私の照れを察して話を促して下さった。やっぱりこればかりは素直になるのが難しい。自分の恋の将来についてを親に話すという行動は。
別に隠したいという訳ではなく、むしろ積極的に話しておきたいし、母上を味方につけたい。
けれど、私は自信がなかった。
桃花について話すときに平静を保てるのか、と。
私は、桃花が愛しい。今すぐ会って抱きしめたら二度と離したくない。本当は一時的にでもその手を離したくなどなかった。
別れのあの時彼女を抱きしめ拐って、どこかに閉じ込めたいという狂気に似た感情もわずかにあったのだ。
自分が心の底から求め愛したひとだからこそ、一切私情を交えずに話すなどとどんな拷問だろう。私は、自分を抑えてきたぶんの反動が凄いという自覚はある。
ホテルで20年分の想いで桃花を抱き潰してしまったように。今母上に桃花について話せば、きっと堰を切ったように止まらなくなる。
絶対に、赤くなる。顔だってだらしなく緩むだろう。自分の親に進んでそんな顔を晒したい人間などそうそういまい。
本気だから、話しにくい。けれど、それでは話が進まない。
私は何度か息を吐いてから額に手を当てて、前髪をくしゃりとかきあげた。
「ふふ、照れた時のクセもあなたのお父様にそっくりね」
「勘弁してください……」
はぁ、と吐息を逃してから。仕方ないと観念して重い口を開いた。
「……桃花がヴァルヌスに来るならば、彼女を妃として迎え入れます。もちろん、将来の王妃として正式に」