Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
シュトラウス公爵が公的に挨拶したい、というならば他の家臣がいる前でということだ。それは幸いというべきか、それとも災いというべきか。
タヌキはおそらく息のかかった有力な家臣で脇を固めているだろう。こちらの有利になるような人選はしないはずだ。
だが、こちらはアルベルトがいる。雅幸だとて種を蒔いて芽吹くまで工作をしてくれた。母上や祖父王の後ろ楯を使わずとも、対峙できる自信はある。私だとてただ安穏と日本にいた訳ではない。
シュトラウス公爵は執務室の隣にある謁見室に既に通してあるという。母上のおっしゃる通りに待たせて正解だな、とドアの前で思う。
警護をしていた近衛兵が敬礼をするのを横目に見つつ、侍従が形式的にお伺いを立てる。既に先触れは出してあったから、すぐに返答があって侍従がドアを開いた。
アルベルトを伴い謁見室へ足を踏み入れると、既に頭を下げていたのは数名の貴族。どれも議会で有力な御家の当主だ。彼らが反対すれば、どんな法案も通らないくらいには。
そして、その中心でソファにどっかりと座ったままだったのが、ベンノ·フォン·シュトラウス公爵。
齢60過ぎにして焦げ茶色の艶やかな髪を波打たせ、同じ色の顎ヒゲをたっぷりと蓄えた。ヘーゼル色の眼光鋭い美丈夫。
祖父王とそう変わらない年代だが、ヤツはまだ四十代でも通りそうな若々しさがある。その端整な顔だちと渋い色香から、未だに宮廷の女性たちを虜にする魅力があった。
「お待たせして申し訳ない。少々取り込んでいたもので」
「なに、構いません。わたくしも言葉遊びで楽しませていただいておりましたから」
シュトラウス公爵は仮にも王族の前と言うのに一度も立ち上がらず、悠然と腰を下ろしたまま。変わらない無礼な態度に、内心で苦笑いをしておいた。