Schneehase~雪うさぎ 身代わり王子にご用心番外編



「ずいぶんご無沙汰しておりました、殿下。きつね遊びはいかがでしたか?」


シュトラウス公爵の言葉遊びはまだ続いているらしい。彼はヴァルヌスの民話である“きつね遊び”の話を引用してきた。

民話というか童話の域になるが、ヴァルヌスで育った者なら一度は寝物語に聞く話。

昔山に住んでいた子きつねは早く母親を亡くしたせいで同じきつねたちに仲間に入れてもらえず、冬の雪の日にひとりで寂しく遊んでいたところを、真っ白な雪うさぎに出会い初めて一緒に過ごす楽しさと温かさを知る。


やがて冬が終わる日。雪は融け木々は芽吹き花が咲き出す春の訪れとともに、雪うさぎは「北へ帰らねばならない」と告げる。子きつねは悲しくて寂しくて、行かないでと泣いて頼んだ。3日3晩泣き続けた子きつねに、雪うさぎはとうとう折れて約束をした。


自分は明日の朝日の出とともに去らねばならないが、その前にある赤い実を食べたい。その赤い実を持ってきてくれたら、一緒に連れていくと。


子きつねはそれから一生懸命に山の中で赤い実を捜す。けれど、とうに日が暮れて真っ暗な中で捜すのは難しいうえに、赤い実などと目立つものが食糧に乏しい冬の間鳥や動物に見逃されるはずがない。


子きつねは思い当たる全部を探したけれど、どこにも赤い実は残っていない。


幾つか越えた山でやっと残っていた赤い実を見つけた子きつねは、それを持って懸命にもとの山へ戻ろうとしたけれど。時は既に遅く、日の出とともに雪うさぎたちが雪雲に乗って北へ去るのを見送るしかなくて。子きつねはひとりぼっちでいつまでも泣き続けた……。


つまるところ子きつねのように、不相応な手が届かない望みを抱いてはいけないという寓話のようなものだ。


母上がヴァルヌスの出身でないから聞いたことがないと思い出した話題かもしれないが、あいにく本好きな幼子だった私は国内外の有名な童話は読破していた。


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