Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
「ほう、それは頼もしい」
シュトラウス公爵も百戦錬磨のしたたかな強者。私の挑発にも何ら動じず、逆に笑みを深めてきた。
「それでは子きつねの居場所も安泰というわけですかな」
「そうだな、他のキツネの意地悪が無ければ前提だが」
その喩えを聞いたシュトラウス公爵は、ふふと鼻で笑う。
「それで潰れる子きつねならば、所詮その程度ではないですかな?」
「さあな。やってみねばわからないだろう」
互いに笑みを張り付けてはいるが、水面下では確実に牽制しあっている。少しでも隙を見せれば、その牙でがっちりと喉元に食い付かれるだろう。
「キツネのリーダーももっと仲間に気を配るべきではないかな? 餌場の実が腐ってきているぶん、養える数にも限度があるだろうから」
餌場=自らが経営する企業の収益のことだが、シュトラウス公爵の企業は軒並み粉飾決算や脱税その他諸々の悪事に手を染めている。そのことを暗に揶揄すれば、ピクリ、とタヌキの指先が微かに動いた。
「餌場が原因でキツネのリーダーが変わることもあるかもしれないな」
「そうですか。おそらくそれはないでしょう、何せキツネたちはリーダーに従順ですから」
ますます笑みを深めたシュトラウス公爵は、こちらへ射抜くような視線を向けてくる。初めて、警戒を滲ませたそれを受けてこちらも極上の笑顔を見せてやった。
「そうか? 他のキツネもいつまでも唯々諾々と従いはしまい。世界はいつでも動いているのだからね」
いつまでも調子に乗るなよ、バーカ! と心の中で舌を出してやり会見は終わる。
これで、タヌキはますますこちらへ敵意を向けるだろうが。それこそ私の意図通りだ。
尻尾を掴むためには、なるべく派手に動いてくれた方が都合がよかった。