Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
新しい計画
『ね~ね~視察してどうだった? すっごくいい場所でしょ~』
まるで3歳児並みに“ぼく、やったよ! 褒めて~”と言いたげなのは、スピーカー越しの雅幸の声。犬だったらちぎれんばかりに尻尾を振ってるだろう。
ヴァルヌスに帰国して1ヶ月。
復帰してそろそろ仕事や公務に慣れてきた頃、毎週定例の雅幸からの連絡が入った。今日は建設途中のある建物の視察のために現場に趣き、つい今しがた帰ってきたばかりだが。
ヴァルヌスでは夜の12時近く。このままでは日付を越えるな、と雅幸のテンションの高さに辟易しつつ「まあな」と答えた。
「立地的にも交通網からいっても集客力は期待できる。富士美の建てているレストランとも目の鼻の先だから、様々なコラボレートも可能だろう」
『でしょ、でしょう! ぼく、すっごく頑張ったんだよ~ みんなの意見訊いてさ~どういうお店だったら足を運びやすいか、一生懸命考えたし土地も買ったもんね~』
「ああ、本当にありがたく思うよ」
雅幸はさらっと簡単に言うが、古い建物が多かった土地だ。交渉は困難を極めたはずなのに、何でもないと笑う。この器のデカさは見習うべきだろう。
『それよりさ~桃花ちゃん、かなり頑張ってるよ! 食堂で働いて夜は学生って二足のわらじはキツイと思うけど、この前食べに行ったらすっごくいい顔してた。なんての? 生き生きしてるんだよね。すごいよね~』
べらべら喋る雅幸がこの場にいたら、口を塞ぐために受話器を突っ込んだかもしれない。それくらい腹が立つ。
私が見られない桃花の笑顔を、こいつは何の遠慮もなく眺めることができるなど。桃花の笑顔に見惚れる男どもの目を潰してやりたい、等と物騒な感情が湧いてきた。