Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
日本へ
父上のご遺言が胸に残った私は、学ぶ内容に日本語を追加していただいた。
父上という大きな柱を失った私たちは、何かに打ち込むことで悲しみを紛らわしていたのかもしれない。祖父も母上も、前以上にお忙しく見えた。
ただ、喪が明ける前から問題となっていたのが、日本から嫁いできた母上の去就。
母上は既にヴァルヌスに帰化してはいらしたものの、夫である王太子を失った今。王太子妃としての地位はいずれ廃される。となると、私の生母という立場以外の確かな地位は何もないのだから、王宮から出されてしまうという可能性が出てきたのだ。
こういう時、皮肉なことにヴァルヌスの議会は素早く対応する。王太子妃の地位を追われた異国の女性を、いつまでも宮殿に留め置くなという決議は案の定なされた。
舅にあたる国王陛下も対応に苦慮されたが、母上が一時体調を崩されたことをきっかけに。療養のためと称して、避暑地にある離宮へと移された。
たぶん、母上は帰国を拒んだのだろう。もと王太子妃という地位や次の王太子の生母という身分に執着されて、ではない。ただ単純に、本当に父上を愛していらしたから。
そして、母として息子を案じて。それだから、離宮行きも受けたのだろう。
母上が実はご自分が女官になる方法を模索していたことは知っていたが、父上のご命令で王子の生母の地位が固く守られたことに安堵した。
そして、王宮の私は母と別れて暮らす日々だったけれど。夏の2ヶ月は母上と過ごせることが嬉しかった。