Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
「やはりダメだったか……」
ベルンハルト城から次の目的地へ移動する車中で、思わずそんな呟きが漏れてしまった。それを聞き咎めたアルベルトは、タブレット端末から顔を上げることなく話す。
「あの方の影響は予想以上でありましたが、それだけで諦められるわけではありませんね?」
「無論、あのタヌキの目論見通りにする訳にはいかないさ」
だが、と窓の外に目をやって微かな苛立ちを抑える。
取材のためにやって来たテレビ局のクルーは、バリバリの公爵派だった。かまを掛ければ匂わせる程度にしか漏らさなかったが、タヌキは既にテレビ局にも手を回していたらしい。
あくまでも公平なふりをした取材姿勢ではあったが、ディレクターの私を見る目は明らかに冷気を纏っていた。オフレコで交換留学について訊ねてきた時、やはりと確信した。コイツは私に反感を持っている――と。
しかもかなり大物のディレクターとプロデューサーが結託していた。その2人に組まれれば厄介なことこの上ない。
だが、だからといって一度受けた仕事を放り出すつもりはない。いくら反感を買っていようが、取材ではありのままの自分を見てもらうしかないだろう。
(下手に立ち回るとマスコミを敵に回すことになる。だが、慎重過ぎては覇気に欠ける……)
これからバーク卿と交渉せねばならないというのに、すべてはタヌキへ筒抜けかと思うと歯ぎしりしたくなるが。悔しがっていても仕方ない。
(なにか、手を打たねば。バーク卿すら遠ざかってしまう)
私と桃花のためだけではなく、国の将来もかかっているのだ。失敗する訳にはいかなかった。