Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
『若造が、知ったふうな口を聞く』
バーク卿の気分屋で気まぐれな性質が現れ始めた。今まで紳士然としていた振る舞いを改め、どら声でこちらを非難する。
『わしをそんな理想論で煙に巻ける相手と軽んじるつもりか! たかだか20そこそこの若造が!』
立ち上がったバーク卿は、ダン! とテーブルを拳で叩く。かなり興奮気味な彼に、私は慌てることなく着席を勧める。
『そう興奮なさらずに。一口だけでもいかがですか?』
『こんなものが食えるか!』
皿を鷲掴みにしたバーク卿は、そのままひっくり返しかねないほど顔を真っ赤にしていたが。私はただ彼を静かに見守る。
『食わず嫌いですか、バーク卿? あなたがビジネスの場でそのように粗暴な振る舞いをなさるとは。祖父の見立ても間違いと言わざるを得ませんね』
『……何が言いたい?』
卑怯かもしれないが、祖父の件を持ち出せば彼は訝しげにこちらをにらむ。
『あなたがイギリスから移住した経緯は伺っています。騙されたと思って一口だけお召し上がりください』
祖父の件はひとまず誤魔化し違う話に繋げれば、彼は渋々椅子に座りカトラリーを手にする。そして、焼き玉ねぎを口にした瞬間――まるで凍りついたようにすべてを止めた。