Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
『……な、なぜだ?』
目を見開き呆然と呟いたバーク卿は、その焼き玉ねぎを凝視して動かない。一見誰でも簡単に作れそうな料理だが、やはり彼には忘れられない味だった。
『……懐かしいでしょう? あなたが子ども時代を過ごされたお家の家庭料理ですから』
ハッ、とバーク卿は顔を上げて私を見る。目付きがキツいから睨んでいるようにしか見えないが、私には彼が困惑しているのだと手に取るように解った。
『……私の、子ども時代を調べたのか』
『失礼かもしれませんが、この会食ではこちらもそれなりの決意をしてます。その覚悟をお知りいただきたい』
私がそばに控えたアルベルトに目で合図をすれば、彼は一度頭を下げてインカムである場所へ連絡をした。
バーク卿は改めて皿の上に載った料理を一品一品眺めている。そして、静かに呟いた。
『だが……これは。確かに私の好物のみだが……どうしてこれが。これを知ってるのは……』
『はい、とある女性にご協力いただきました』
彼の様子からもうよかろうと判断し、アルベルトへ合図すれば個室のドアが近衛によって開かれる。
そして――
バーク卿は目をひんむいた。
『ベス! なぜ……あなたがここに!?』
ドアの前に立っていたのは――バーク卿をイギリスで育てたも同然の一人の女性だった。