Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
バーク卿がベス、と呼んだ女性は彼の幼なじみであり、かつ彼を引き取ったバグウェル家の長女。バーク卿より5つ年上なだけだから、まだ50を過ぎたばかりで老女というには早い。銀色がかったブロンドを結い、年輪を刻んだ年相応で品のある顔だちをしていた。
今彼女はロイヤルブルーのブラウスに黒のタイトスカートで、白いエプロンを身につけている。その姿にバーク卿はすべてを悟ったらしく、こちらを振り返った。
『……まさか、ベスまで連れてくるとは。彼女にまで無理強いをするつもりか?』
『いいえ、私はただエリザベスさんにはあなたに会える可能性がある、とお伝えしただけで強制など一切しておりませんよ?』
私はエリザベスを見ながら、バーク卿に訥々と話した。
『どうして“無理強い”等という言葉が出るのですか? 彼女は自らの意思でこちらへいらっしゃいました。この料理も彼女からの提案だったのです。なぜそんな乱暴な可能性を想像してしまうかは、あなた自身がその原因をよくご存知だからではないですか?』