Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
私が言ったのは綺麗事に過ぎない。バーク卿がまた怒りを露にする覚悟はしていたが、彼はエリザベスさんを前に項垂れて目を伏せた。
『フラン、お久しぶりね』
『ベス……私は』
『なにも、おっしゃらないで』
エリザベスさんは静かに首を横にふり、ゆっくりとした歩みでバーク卿に近づくと彼の手を取る。
『30年ぶりにこうして逢えたのですもの。今は、この再会を喜ぶべきだわ。そうでしょ、フラン。でなければあなたのお母様に申し訳が立たないわ』
『ああ……そうだな』
バーク卿は伏せていた顔を上げると、しっかりとエリザベスさんの顔を見て視線を合わせる。
微笑むエリザベスさんと口元を綻ばせる彼は、30年ぶりとは思えないほど親しげな雰囲気を醸し出していた。
バーク卿もエリザベスさんもイギリスのウェールズ·ペンブルックシャー出身。
ペンブルックシャーは海沿いの穏やかな気候の地方で、農業や酪農が盛んな土地だ。 特にジャガイモの生産が有名だろう。
近年は天然ガスや油田の開発もされているが、大部分の土地は昔ながらの産業を主に行っていて、近年は観光地としても力を入れている。
そんな土地でバーク卿は豊かな地主の息子として、エリザベスさんは使用人の娘として。生まれながらにして主従関係が既にあったのだが。年が近い2人は本当のきょうだいのように育った。