Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
『ええ、あの“タヌキ”です。子きつねに意地悪なキツネでもあります』
私がそう言い放った瞬間、バーク卿は目をまん丸に見開く。私は平然とその顔を見返すと、ブハッ、と彼が噴き出した。
『わはははは! これは、確かに。あの男はタヌキ呼ばわりが相応しい』
バン! と手のひらで膝を打ったバーク卿は、一通り笑った後に『よろしいでしょう』と頷いた。
『たしかに、独りぼっちの子きつねを増やすわけにはいきませんな。ヴァルヌスの民として、専横を極めたタヌキどもの追放に手を貸せるならばこれ以上の栄誉はありません』
バーク卿の妻はヴァルヌス出身。バーク卿自身も帰化して、子どももこの国で生まれ育った。だから子きつねの揶揄も解ったのだろう。イギリス人のエリザベスはよくわからない顔をしていた。
『さて、これから楽しい狩猟が始まりますな』
言外に、バーク卿は徹底的にタヌキを駆る宣言をした。宮廷を追放するだけでなく、二度と表舞台に出られなくする――と。
『あなたのご希望が叶うようにもしましょう。エリザベスと私のようにならないために』
『……それは、ありがたい。彼女は異国の女性だが、あなたたちと同じように幼なじみ……のようなもので』
その後、バーク卿の巧みな話術であれやこれや一切合切を白状させられてしまい、頬を緩めた彼にひと言言われてしまった。
『なるほど、殿下は純情と言うよりヘタレでしたか』
『……』
『ですが、相手の都合も考えず強引にことを運ぶなら、私も助力はいたしませんが。気の毒なほど弱気ですから、仕方ない。人生の先輩として色々レクチャーして差し上げますよ』
クスクス笑われて顔から火が出るほど恥ずかしかったが、これで最大の味方を手に入れた。
あとは……
知らず知らず、唇が笑みの形を描いていた。