Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
まったく、と車中でため息をつく。
つくづく、女性というのは恐ろしい。
母上にしろ、富士美にしろ、マリアにしろ。どんな強敵よりも戦いづらく、かつ手強い。一筋縄がいかない相手ばかりだ。
タヌキが跳梁跋扈する宮廷での戦いの方がよほどやり易い。それに比べて、女性の精神的な強(したた)かさには舌を巻くほかない。
考えてみれば、母上は異国の宮廷で。富士美はファッション業界で。マリアはビジネス界で。それぞれ自力で道を切り開き、生きてきた強者だ。それは予想もできない困難な道であったに違いないのに、どんな逆境にも負けずにしっかりと自分で輝いてる。
(桃花も……自分で決めた道を歩み始めたのだからな)
その道のりへ、桃花も第一歩を踏み出した。彼女なりの初めての夢。生きる意味。
人よりスタートが遅いぶんハンデは大きい。富士美のバックアップがある分にはまだましたが、それでも道のりは決して平坦とは言い難いだろう。
夢は、諦めたらそれで終わってしまう。三十路で新しい世界へ飛び込むのは無謀かもしれない。だが、不平不満を並べ立てながら変わろうとせず無為に日々を過ごすより、よほどいい。
(私も負けていられない。夢は実現する努力をしてこそ輝くものだからな)
待っているだけでは、何も掴み取れない。餌を待つ雛鳥ではないのだ。欲しいものがあれば自分から動かねば手に入らない。
桃花とともに生きる未来のために、そしてヴァルヌスの未来のために私はシュトラウス公爵を倒す。改めて胸に誓った。