Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
『えっ、いいの?』
『もちろ~ん! ボクん家の離れに滞在するなら、セキュリティだって万全だし。あ、お祖父様になら上手い言い訳用意してあるから、全部任せてよ~』
へらへら笑いながらほとんどはちみつになったお茶を飲む姿は、能天気で何も考えてないように見える。
けれど、それが見せかけの姿だと知るのは直ぐに。
『明後日の帰国の同行を許してもらえたよ。もちろん母上も一緒に里帰りだ』
8月の半ばにニコニコと雅幸がそんなことを言ったから、驚いた。まさか母上の里帰りまで許されるとは思わなかったから。
どうやって許可を頂いたのか、と訊ねてみれば。簡単だよと笑う。
『日本では先祖の御霊をお迎えするお盆という習性があるって、お話ししただけだよ。先祖代々の魂をバカにしたら祟られるってさ。ああ、西洋人に祟りって言ってもわからないから、呪われるって教えて差し上げただけさ』
『……』
“祟り”というものは日本人の血が流れてはいても、わからなかった。だけど、呪いというのはわかりやすい。ヴァルヌス王家には、祖先を蔑ろにして呪われ滅びた王様の話も伝わっていたから。乳母から寝物語に聞かされるそれは、とても恐ろしいのだ。
たぶん、雅幸はそれを知っていて脅し混じりに利用したのだろう。“誰かがあのお話しのような結末になってもよろしいか?”なんて。
妻と同じ病で息子を亡くした祖父からすれば、この上ない脅しだったに違いない。
5歳児なのにとてつもない腹黒だ、と雅幸の本性を知って。日本へと経った。