Schneehase~雪うさぎ 身代わり王子にご用心番外編



その日の午後は大した公務がなかったから、そのままベルンハルト城に戻った。すると、すぐに祖父王からの呼び出しが掛かる。


アルベルトを通じて連絡を受けていたものの、母上も交えてお茶をしたいと言われては断れない。それだから、カッツェの新市街で珍しい和菓子を買っておいた。





『久しぶりじゃな、カイ。元気そうで何よりじゃ』


帰国して間もない頃に一度挨拶はしたが、公的なものであわただしかった。
たぶん、今日は一家団欒の意味で集まったのだろう。


祖父は妻と息子と娘を亡くしている。直に血が繋がったのは、孫の私とフランツだけだ。

フランツは外孫でベルンハルト城にいる身分でないから、祖父とはいえめったに会えない。会うたびに可愛がっているのだから、やはり本当ならばこの場所に呼びたかったに違いない。


だが――フランツのもうひとりの祖父は、あのタヌキ·シュトラウス公爵だ。


フランツ自身は穏やかで本が好きな、将来は翻訳家を目指したいという欲がないどこにでもいそうな少年だ。


だが、その体には確実に王孫たる王族の血が流れている。王位継承権こそ私と大叔母に次ぐ3位だが、祖父の妹である大叔母は高齢だし病を抱えている。フランツの持つ王位継承権が第2位になるのも時間の問題だろう。


成人したら王子に準ずる待遇と侯爵の爵位が与えられる。いざという時私に代わっても困らないように、帝王教育も既に始められていた。


優しくても気が弱い孫を言いなりにさせることなど、シュトラウス公爵にすれば朝飯前だろう。 タヌキはフランツというカードを最大限に活用するつもりだ。


祖父がわざわざ愛娘を仲がよくない家へ嫁がせた意味を、あのタヌキは全く理解しようともしていない。


国が割れないための融和策だったというのに。タヌキは王女が嫁に入ってからますます増長しだしたのだ。


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