Schneehase~雪うさぎ 身代わり王子にご用心番外編




『いやはや、そう来るとは思わなかったぞ、カイ』


祖父が口にしたのは、その昔東海道での銘菓であった「あわ雪」という和菓子。時代の変遷の中、一度消えかけたがそれを憂いた何代目かが復活させたものだ。


そして、今いただいているのは現代的にアレンジされたフレーバーであるチェリーブランデー味。和菓子と思ったのに、洋酒の風味がして驚かれたのだろう。


祖父にはあえて歴史ある三河銘菓という点だけ伝え、訊ねてみた。


『いかがでしたでしょうか?』

『うむ。実に変わった食感で大変興味深い。だが、それよりはこの菓子一つに込められた意味じゃ。なるほど……時代とともに在りようが変わるのは当然の変化か』

『わたくしが幼い頃はいただいた贈り物でしか口にできませんでしたの。何時の間にかこんなにもバリエーションが豊かになっていたのですね。わたくしの楽しみも増えましたわ』


母上が懐かしむような眼差しを和菓子に向ける。喜んでいただけたようで何よりだったし、これから扱う和菓子の選定に弾みがつきそうだ。


そして、私は今一番訴えたかった言葉を祖父に奏上する。


『お祖父様、人の心も姿も時代とともに変わります。昔の伝統を重視するあまりに、貴族優先という宮廷は事実上機能不全に陥ってます。それよりも今、この国で生きている民のための政(まつりごと)を為すべきです。
いつまでも古い淀みで濁っていては、腐ってゆくだけです。もうそろそろ新しい風を入れるべきではありませんか?』


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