Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
いよいよ祖父に、桃花の存在を明かす。それまで雅幸から仄めかし程度には聞かされていたかもしれないが、私自身がこの話に触れるのは初めてだ。
疚しいことは何一つない。こそこそするのはかえって後ろめたいからだと思われてしまうだろう。
私は第一王子として正々堂々と桃花を迎え入れる。そう決めてヴァルヌスへ帰ってきた。
周りに認められるには、まず身内から納得させねばなるまい。祝福されるためには必要最低限の条件だ。
背筋を正した私は祖父の瞳をまっすぐに見据え、数度深呼吸をしてからはい、と答えた。
『私が日本へ留学した本当の理由は彼女の為です。彼女とは母上の里帰りの折、3つの時に知りあいました』
『それはずいぶんと昔からだったのだな。
すると、毎年夏に弥生さんの里帰りに着いていったのも彼女が理由かね』
『はい。私が原因で彼女はひどい怪我を負い、トラウマで人生が狂ってしまいました。だから、見守ることにしたのですが……』
『それだけに留まらず、異性として惹かれていったというわけか』
ふむ、と祖父は顎髭を撫でて目を閉じる。祖父が考える時の癖だ。
当然ではあるが、やはりすぐには承諾されない。いくら直系の王孫である王子とはいえ、相手を『好き』という感情だけで選べはしない。私には確実に血を残す義務がある。他の兄弟がいないぶん、妃を選ぶならばきちんと子どものことも考える必要がある。
世の中の夫婦のように、子どもはいなくてもいいという選択ははじめからないのだ。