Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
祖父は、私を見たまま何もおっしゃらない。私も何も言えないまま、緊張を孕んだ沈黙が部屋を支配する。
コツン、と祖父は指先でテーブルを叩いた。その後組んだ両手をテーブルに置くと、ニヤリと悪戯っ子のような笑みを浮かべられた。
『正解じゃ。カイよ、王たる者は欲張りなほどがちょうどよい。控えめで無難なやり方も悪くはないが、それでは停滞しか生まぬ。時代とともに王室のあり方も王位も変わるべきじゃろう。 無論、宮廷もな。
いつまでも数百年前のやり方を続けていては、この国は世界に取り残されてしまうだろう』
『……それでは』
『うむ。その女性を迎えるために好きにするがよい。お手並み拝見と言いたいが、わしはあくまでも中立の立場を崩さぬ。それを忘れるでないぞ』
そこまで言っていただけたならば、祖父の許可をいただけたも同然。私ははい! と勢いよく返事をした。
『お祖父様にご迷惑はおかけいたしません。必ずや、彼女を迎え入れる万全な状態にしてみせます』
『ふぉっ、ふぉ。それは頼もしい。そなたがそこまで入れ込む娘さんに、わしも興味が出た。機会があればぜひとも個人的に会ってみたいのぅ』
相好を崩したお祖父様は好好爺といった風情だが、まさか桃花がヴァルヌスに来た時に本気で実行するとは。その時には思いもしなかった。