Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
日が落ちて暗くなりつつある中、視界はどんどん悪くなる。対向車がすれ違うがやっとの狭い崖道は片側が断崖絶壁で、ガードレールが一定間隔で切れている。もしも事故を装い落とそうとすればその辺りを狙うだろう。
おそらく、崖下まで30メートルはあるだろう。落ちて運よく怪我程度で済めばいいが、ほぼ垂直の凹凸の少ない崖を登るなど不可能。おまけに、崖下は常緑樹の深い森が広がっている。車が落ちたとしても、木々に抱き込まれ見つかることも難しくなるだろう。
(……なるほど、だからここを選んだのか)
考えれば考えるほど、事故を装うために選ばれた場所なのだと理解した。となれば、この公務自体が罠だったということか。
“個人が身寄りのない子どもを預かる施設を郊外に建てました。励みになりますのでぜひとも慰問なさってください”
差出人がわからない投書は、あのタヌキの手の者の仕業だったのか。
その施設は本当に存在する。こちらから話を持っていけばとても喜んでくれたし、子ども達も楽しみにして手作りのプレゼントを用意してお待ちしております……と施設長から聞いた。
そんな子ども達の純粋な想いすら、ただの踏み台としてあの男は利用したのだ。
(決して許すわけにはいかない)
ぐっ、と手のひらを握りしめ藍色に染まる空を睨み付けた。
まるでそこに、シュトラウス公爵がいるように。
『加速しマスから、舌を噛まないように。しっかり掴まってくださいネ!』
エリィがそう叫んだ後、グッと車が急加速した。