Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
しかし、予想外のことが起きた。カーブを幾つか過ぎたずいぶん先の道を、岩が塞いでいるようだったのだ。おそらく連中の妨害だろう。
『道が塞がっているが大丈夫なのか?』
『ノープロブレム。お任せくださいネ!』
明るく答えたエリィがアクセルを踏んでグッと加速度が増し、揺れが激しくなる。緊張感が高まる中で、ドンッ! と後部から異なる衝撃を感じ、一瞬車体が揺れた。
「しつこい男は、嫌われるネ!」
なぜかドイツ語ではなく日本語で叫んだエリィは、加速しつつ予想外の操作をした。
「やつらを引き付けてから、サーカスやるよ。しっかりしがみついていてネ!」
サーカス? 一体何をするんだ? と思いつつも、私にできることは何もない。ただ、後ろから発砲があるらしく、防弾ガラスに何度かそれらしい音を聞いた。車体すべてが防弾仕様だから着弾はある程度防げるが、まさか本当に発砲してくるとは。連中はまさに手段を選ばないつもりらしい。
(それほど私が邪魔か……明日私が明かすことが)
決して、負けるわけにはいかない。自分のためだけでなく、たくさんの民のためにも。シュトラウス公爵のようなご老人にはそろそろ隠居いただくべきだろう。
いくら犯罪に手を染めていようとも、彼を裁くのは私の役割ではない。それは公的な機関のすべきことで、私は彼をそこへ送り込むだけだ。
「じゃあ、いっくヨ!!」
エリィが最大級の加速をした後、とんでもない車の運転をした。
崖道の壁であるもうひとつの崖に乗り上げたかと思うと、車体を横にしたまま壁を走ったのだ。
とんでもないスピードと蛮勇とテクニックが必要なその操作を、誰もができる訳ではない。
壁を走れば確かに道を塞いでいた岩など関係ない。無事に走り抜けた後、連中は追ってこられず私たちは無事に逃げ切ることができた。