Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
施設には予定通りの時間に到着した。多少車体に傷がついたが、後はとりたてて異常なし。
変に思われないためにも、笑顔を浮かべそこへ訪れた。
けれど、義務感からの訪問をすぐに後悔するはめになる。
その施設には十人ほどの子どもがいて、一軒家ほどの建物で共同生活をしている。中央にあるリビングでは、自由時間をそれぞれ楽しんでいる。そのなかの一人の男の子が、折り紙で作り上げた茶色い四本足の動物らしきなにか。まだ六歳なら仕方ないか、と微笑ましく見守る。
『カイ様! これ見て。ぼくが作ったんだよ』
『ああ、とてもよく出来ている。馬が好きなのか?』
『うん! 父さんがまだ生きてる時に牧場で乗せてもらったんだ。馬ってリンゴが好きなんだよ』
『そうか、知らなかったな。私も今度持ち馬にリンゴでもあげてみるか』
私がそう話すと、男の子は目をキラキラさせた憧れの眼差しを私へと向けた。
『カイ様、馬を飼ってるの?』
『ああ、馬なら何頭かいる。乗馬もするし、競争馬もいるな』
『すごい! 馬、いいなあ。ぼくもまた乗ってみたいだけど……』
男の子はそこまで話すと、急に声がしぼんでうつむいてしまう。子どもなりに自分の環境は理解しているんだろう。
まだこんなにも幼いのに、あきらめることに慣れてしまっている。その現実にひどく胸が締め付けられた。
(桃花と同じだな……)
子どもというものは馬鹿でも愚かでもない。何も考えないわけでも、何も感じないわけでもなく。彼らなりに一生懸命に考えて理解しようとするのだ。