Schneehase~雪うさぎ
身代わり王子にご用心番外編
「初めまして、桃花の母の桐花(きりか)です。ようこそ起こし下さいました」
玄関で出迎えてくれた桃花の母は、ずいぶんとほっそりして少女のように見えた。とても8歳の子どもの母には思えなくて。シルフ(風の妖精)のような儚い空気を纏っていた。
彼女の言葉は、通訳兼護衛として着いてきた乳母が訳してくれる。最初は反対していた乳母も、私が寝食を忘れて日本語を学んでいたことと。2年前に桃花を助けられなかったことから、渋々折れてくれた。
「父親はいらっしゃらないのですか?」
「は……はい。お仕事が忙しいみたいですので……」
リビングルームに案内される最中で乳母が桐花に訊ねれば、どうもおかしい。肩をビクッと揺らして、顔色が真っ青になったのだから。彼女が嘘をついたのだと私でも解った。
会話の内容は乳母に教えてもらえなかったが、父親という単語は知ってたから。それに関わる良くない内容と理解する。
(桃花の父親はこんな夜でもいないのが当たり前なのかな?)
今は、間もなく日付も変わろうという時間帯。こんな深夜の訪問も非常識だろうけど、お忍びの来日である以上は人目に触れにくいこの時間の方が都合がいい。世間的にその時の私と母上はまだヴァルヌスの離宮にいることになっていたのだから。